
1. エグゼクティブ・サマリー
2025年は、世界の気候変動対策およびカーボンクレジット市場において、過去数年間の「模索と混乱」の時期を経て、新たな「統合と品質重視」のフェーズへと移行する歴史的な転換点となりました。
ブラジル・ベレンで開催されたCOP30は「実行のCOP」として、パリ協定第6条に基づく国際炭素市場の本格稼働を決定づけ、各国に対し2035年に向けた野心的なNDC(国が決定する貢献)の策定を求めました。
日本国内では、2025年11月から12月にかけて東京証券取引所(TSE)において「GXクレジット」の集中取引期間が設けられ、2026年度からの排出量取引制度(GX-ETS)本格稼働に向けた重要な価格シグナルが形成されつつあります。
02. イントロダクション:2025年という「分水嶺」
2025年は、以下の3つの観点から極めて重要な年です。
国際制度の確立
パリ協定第6条ルールの実装とCOP30での合意により、国家間および民間レベルでの炭素取引ルールが明確化。
市場の二極化
「質」を問わない拡大期が終了。信頼性の高いクレジットのみが生き残る選別期へ突入。
日本のGX実装
GXリーグ試行期間(フェーズ1)終了。法的拘束力を持つカーボンプライシング(フェーズ2)への移行準備。
03. グローバル・コンプライアンス市場の動向
世界のカーボンプライシング収入は2024年に1,000億ドルを超え、2025年にはさらに拡大しています。コンプライアンス市場は、企業の法的義務に基づく需要に支えられており、市場全体の基盤を成しています。
EU ETS:底堅い価格
2025年11月現在、EUA価格は82ユーロ/t前後で推移。欧州経済の停滞等による調整局面にあるものの、2030年に向けて149ユーロ/tまで上昇すると予測されています。
CBAMの実装
2026年からの本格適用を控え、2025年は「駆け込み寺」的な対応期間。欧州鉄鋼大手などは炭素コストの上昇を見越し、製品価格への転嫁(+30ユーロ/t)を進めています。
04. ボランタリー炭素市場(VCM)の構造改革
「信頼性(Integrity)」による市場分断
ICVCMの「コアカーボン原則(CCPs)」がグローバルスタンダードとなり、CCPラベルの有無で埋めがたい価格格差が生じています。
CCPラベル付き (Tier 1)
厳格な基準を満たした高品質クレジット。
低品質クレジット (Tier 3)
ベースライン過大評価などが疑われるもの。
05. 国際航空(CORSIA)市場の需給逼迫
供給不足の構造的要因
需要(1億〜1.6億トン)に対し、供給(約1,584万トン)はわずか10分の1程度。パリ協定第6条に基づく「相当調整」の遅れが主因です。
価格へのインパクト
圧倒的な需給ギャップにより価格が高騰。航空会社にとっては予期せぬコスト増となり、運賃転嫁やSAF導入加速の要因となります。
06. 日本のGX戦略と市場メカニズム
2025年はGXリーグ試行期間の総仕上げであり、本格的なカーボンプライシング導入への橋渡しの年です。 特に注目すべきは、「GXクレジット」の取引開始です。
| 種別 | 推定価格 (円/t-CO2) | 市場動向・インサイト |
|---|---|---|
| 再エネ電力 | 7,000 - 8,000 | RE100需要で底堅い。上値はFIT証書との裁定で限定的。 |
| 省エネ | 6,000 - 7,000 | 供給潤沢により価格は弱含み。 |
| 森林 (Forest) | 7,000 - 8,000 | 「質」への評価が最高。ブランド化が進む。 |
| GXクレジット | 未定 (初値注目) | 11月からの取引で価格形成。GX-ETSの前身。 |
07. 2025年-2030年 価格予測シナリオ
現行政策が予定通り履行され、世界経済が緩やかに成長。
COP30でNDC引き上げ、品質基準厳格化、除去系需要急増。
地政学対立等で気候変動対策が停滞。
| 市場/商品 | 2025年実勢 | 2030年予測 (シナリオA) | インサイト |
|---|---|---|---|
| EU ETS (EUA) | ~12,700円 | 23,000円 | CBAM本格化と無料割当削減が上昇圧力。 |
| VCM (CCPラベル付) | ~1,200円 | 4,500 - 7,200円 | 信頼性回復と除去系シフトで堅調。 |
| VCM (低品質) | ~500円以下 | 市場退場 | 市場からの淘汰が進む。 |
| J-クレジット(再エネ) | 6,500円 | 9,500 - 10,500円 | 賦課金導入を見据え緩やかに上昇。 |
※ 為替前提: 1ドル=145円、1ユーロ=155円
結論と提言:日本産業界へのメッセージ
「価格」から「価値」へ
単価の安さではなく、プロジェクトの信頼性やコベネフィットを重視。これが将来的な資産価値保全につながります。
GX-ETSへの早期適応
本格導入を待たず、2025年のGXクレジット取引を「予行演習」として活用し、自社の限界削減費用を見極めましょう。
長期的視座での投資
将来の炭素価格上昇を見据え、省エネ・再エネ設備への投資を前倒しで実行。将来の「炭素負債」を減らす確実な手段です。
免責事項:
本レポートに含まれる予測、見解、数値は、執筆時点(2025年11月)において入手可能な情報(市場データ、公表資料等)に基づき作成されたものであり、将来の結果を保証するものではありません。実際の市場動向や制度変更により、予測と異なる結果となる可能性があります。投資や経営判断にあたっては、自己責任において行われますようお願い申し上げます。